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形変化の各計算スナップを繰り返し計算する、いわゆる非定常解析を行って1年後の地形変化を評価した。検討に当たっては、鹿島港の波浪観測記録を基に0.5m以上の波高の出現頻度が同じになるように2時化で代表させたモデル時系列波浪を用いた(図−6)。
1年後の等深線の変化を図−7(1)、(2)に示す。離岸堤を設置しない場合には、人工島の端部で侵食、背後で顕著な堆積を生じている。これに対して、人工島端部の岸側に離岸堤を設置すると、離岸堤背後は顕著な堆積を示してトンボロが発達するものの、背後の地形変化は抑えることができるため、静穏海域を有効に利用することが可能になると考えられる。ただし、離岸堤の両隣は侵食するため、適切な規模と間隔でヘッドランド群を建設し、安定な海浜を形成させる必要がある。ヘッドランド工法は、通常よりも大規模なT型突堤や離岸堤などにより海浜を数百mから数?に分割し、養浜を併用してヘッドランド間に緩やかな弧状のポケットビーチを形成させて海浜を安定化させようとするものである。
また、このようにして形成された人工島背後の静穏域

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Fig.6 Modelled series of Wave conditions

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Fig.7 Calculated bottom topography after a year

ならびに周辺海岸の海洋性レクリエーション機能を高めるため、ヘッドランドを利用してその沖側にヨーロッパやアメリカの海岸でみられるプレジャーピアを建設し、複合商業施設や魚釣り公園、マリンスポーツの基地として利用することも考えられる。また、例えば北海道の国縫漁港のように島式漁港(Kawaguchiら、1994)9)、を建設して、ヘッドランドとしての機能を漁港に併せ持たせることも考えられる。このような海浜安定化方策のイメージを図−8に示す。
4. 生物環境からの影響
人工島が建設されると、その周辺に生息する種々の生物にいろいろな影響が生じる。この影響は、生物によって異なり、人工島建設がマイナスに働くもの、プラスに働くもの、あるいは生物のライフサイクルのある部分にはプラスでもある部分ではマイナスになるものなど、非常に多様である。
人工島建設が沿岸漁業対象生物を含む沿岸生物に与えられる影響は、「人工島」という「場」の形成、およびこれにより引き起こされる物理的現象(波・流れの変化、これらに伴う各種環境の変化)によるものである。一般論として、鹿島灘を例に人工島の建設が沿岸生物の生態に対してどのような影響を及ぼすと考えられるかを模式的に描いたものが図−9である。
人工島が建設されると、その場所で網を曳き廻す形態の漁業は操業不能となるが、人工島周辺の護岸がアワビ・サザエ・ワカメおよびカサゴ・アイナメといった岩礁性資源の新たな漁場になる。また、汀線延長の増大、地形的複雑性の拡大により、より多様な環境を形成するようになる。このことは生態的多様性を増加させるようになる。
一方、人工島により形成される背面の静穏域は物質が集まってくるという効果(したがって、幼生・稚仔魚・プランクトンも集まる)があるが、過剰な物質集積、特にシルトや有機物の集積はチョウセンハマグリ・ホッキガイといった外洋砂浜に分布する貝類、およびシルトの少ない砂底を生息場所とするイカナゴ・イシガレイ・ヒラメといった魚類の生息にとってはマイナス要因である。このことから、静穏域にも「適度な」撹拌が必要である。以上のように、生物環境からみれば、人工島の建設は、

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Fig.8 Illustration of shore protection measures

 

 

 

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